週刊現代 2021年06月05日号
- 飲んで問題になるようなデータや知見に基づく根拠は全くありません。
- 2500倍などの見出しも恣意的な比較でしかない
- 根拠の一切ないなかで、農薬たっぷりと結論付け
A: p164 導入部は北海道大学獣医学研究院の池中良徳准教授らのグループの論文
この研究は文科省の予算ですが、このグループは、脱ネオニコ運動をしている、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストの公募助成企画「ネオニコチノイド系殺虫剤の母子間移行メカニズムの解明」に関わるメンバーが加わっています。
そもそも、論文1つを論拠に全体を語っていいのでしょうか。それ以前に、私には、まずこの論文自体の信ぴょう性が確認できません。
疑問1. 精査された信頼できる論文なのか?
詳しくないので教えて頂きたいのですが、このジャーナルは、論文を投稿していることは分かるのですが、論文の正当性はどこで担保されているのでしょうか?精査された様子がないので、論文の正しさが不明です。
疑問2. この分析方法ではこの精度は無理なのでは?
一般に、残留分析機関においても、精度に関して実績の積み上げが重要になっています。どこの残留分析機関でもいいわけではなく、信頼度が問われます。ところで輸出に必要なユーロフィンの分析を請け負っている残留分析機関においても、検出限界は0.01ppmです。ガスクロの一斉分析ですが、これより微量の濃度を調べるとすると、それぞれの成分について、それ相応の分析方法をとる必要があるはずです。
この研究では、数種類の一斉分析をガスクロでやっていますよね?これで通常の100倍も詳しく、しかも正確な値を出していくことが可能なのでしょうか? 2.3. Quality control and quality assurance には それっぽく書いてありますが、そもそも無理ではないかと。
(参考)厚労省 GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)
疑問3. 他国の残留基準との恣意的な比較
最大残留濃度 (MRL)は、毒性や安全性を直接反映するものではなく、国ごとの状況に設定されるものです。例えば他国に使用実績がないため判断できない=自動的に検出限界以下に分類される農薬と、日本の基準とを単純に比較して、〇〇〇倍と主張する団体はそれだけで信用しない方が賢明です。この原則を無視して、単純に比較図を載せている論文です。
反証 茶における米国の農薬残留基準値と設定予定 (2019年6月28日付)国ごと設定されるとそれほど違いはないと思います。逆に違いのある場合は、政治的あるいは食文化の背景があることが多いです。
疑問4. 検出された最大値をずっと飲み続けるという前提でさえ、それがADI(安全係数で100倍に厳しくし、生涯食べ続けても影響がないとされる目安)を下回っているなら、結論としては問題ないということになるはずでは?
検出された最大値の農薬でも問題ないで終わりでしょう。まだ解明されてない毒性うんぬんは、ここでは関係ない話です。
疑問5. 1 日最大摂取量の計算式のうち、茶葉摂取量が間違っていませんか?
日本人の成人と子供 (1 ~ 6 歳) の 1 日あたりの茶葉摂取量(中略)、それぞれ 35.7 g および 15.3 g と想定されました (日本政府のデータ)。という風に書いてあるのですが、そんなに飲んでいるなら、今の茶の生産量何倍もしないと間に合いません。おそらく、茶葉と茶飲料を混合してしている可能性があります。
結論として、こういうデータがでた論文があります。ということのみが事実であって、それ以上でもそれ以下でもないですね。したがって今回の根拠になりません。
B: 奥野氏のジノテフランについての記述 p164-165
EUでは1kgあたり0.01mgが基準として認定されている。日本では25㎎であり、EUの2500倍
まず、EUの0.01mgは、EUではポジティブリストから外れるため、検出限界の0.01mgが適用されるだけです。つまり、安全性等を確認しての基準ではないわけです。これは単にジノテフランをEU農家が使用していないため、農薬会社も安全性についての基準設定を出していないだけです。 一般に安全基準を設定するには、1億円ほど費用がかかると聞いたことがあります。EU内で販売する予定のある農薬でしたら回収可能でしょうが、そうでない場合はどこから費用を回収すればいいのでしょうか?
つまり、調べてないから分からないからとりあえず出ちゃだめよという値と、よく調べて出した基準を比較して、こんなにも日本の基準は緩いと結論付けるわけです。このロジックは、農薬に否定的な団体が常に使うので、注意が必要です。
次に、この比較してはならない2つの基準を比べて出した結論から、安全基準が緩い=農薬の使用を抑えないで使うという、「いいがかり」にもっていくのです。現在の農家は、なるべく農薬の使用量を抑える努力をしています。しなければ、コスト高になりますし。
なお、奥野修司氏は、論文や科学的な根拠を、自分の考えで勝手に解釈してかく癖のあるジャーナリストです。
平成元年度の古い情報で恐縮ですが 平成元年度段階で、EUに「申請予定」になっています。
ジノテフラン の残留農薬基準値 (MRL) : mg/kg (ppm)
日本 USA EU 台湾 香港
25 50 0.01 10 25
C: ネオニコ系農薬の危険性 p166
これはネオニコ系農薬の性質のものです。直接人体に作用する影響がかかれています。しかし、一般的な食品摂取からの安全基準以下での動向は、「考えられています」「疑いも出ています」といった、根拠のないものです。
ましてや、今回のAやBで書かれた通常の飲用レベルとは関係ない話です。
前橋市の小児科開業医、青山美子医師が語っています。青山医師は、ネオニコチノイド研究会代表の平久美子医師と共同研究をされています。一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストの助成も受けています。
この平久美子医師 の因果関係の実証の論文ですが、多くの事例があるといいつつ、固定された数例ほどしか紹介していません。しかも、何を食べたかを本人に書かせたもので、それをもって、因果関係を断定するという、根拠は平医師が決めつけたというものです。
因果関係の特定には、通常、極めて慎重に試験をする必要がありますよね。根拠が「私の長年のカン」では、通用しないと思います。
D: 小若 順一氏。日本の市民運動家。食品と暮らしの安全基金代表。
ネオニコ系農薬の物質的な性質を書いています。
しかしながら物質のもつ性質の影響と、今回のようなADIより下のほとんど痕跡レベルの影響は、別の話です。
なお、このうち、チアメトキサムは、日本もEUも残留農薬基準値 (MRL) は同じ20mg/kg (ppm)、チアクロブリドは25と10という違い。つまりこれは、書いてないけどBの否定になりますね。こういうご都合主義です。
E: 茶葉農園を営む男性(69歳) p166
飲料メーカーに勤めていた経歴をもつそうで、定年後かな?書き方が「私たち農家」と書きながら、他人事っぽい書き方。
1. 安くて利益がでない(確かに茶価下落してます)
2. 収穫量をあげるために化学肥料(まあ比較的安いし)
3. と農薬に頼らざるを得ない(??????)
農薬撒くとコスト増大です。その上、必要以上に撒いても収穫量は上がりません。
「一般的な茶農家は年に10回以上もネオニコチノイド系農薬を散布しています。」
確認しましたが、そんな農家は存在しません。現在、一般の茶農家は、すべての農薬を合わせても、10回以下の農薬散布くらいになっています。ましてや、ペットボトル用の茶葉生産に、多大なコストをかける必要性がないのです。
県やJA、販売店の指導も、なるべくネオニコ系農薬の使用を控える方向です。なぜなら、これを使い過ぎると、虫の抵抗性を持った個体が残って、効きにくくなるため、慎重に使うためです。現実的には他の薬剤で代用できることが多いため、ネオニコ系農薬を使用するにしても、1種類か2種類の使用というのが一般的な茶農家です。
ましてや残留農薬基準にあわせて使うなんてことはあり得ません。
こういう場合は、農家の言葉を誤って書いている可能性と、取材先の自称農家があまりよくわかっていない可能性があります。私も時々取材受けますが、取材した人が勘違いすること、誤字脱字はよくあることです。そもそも取材何てそんなものですよね^^;
ちなみに、本当に散布をしている農家さんなら、現在の茶葉を子に飲ませないとか心配するよりも、散布中・散布後数日間の茶畑近隣での呼吸の方を重視された方がいいと思いますよ。
D: 完全・有機無農薬を行う茶葉農園に勤める女性従業員(36歳)p166-167
まあ、以前私が受けた他の週刊誌の電話取材でもこういうコメント欲しかったのでしょうね。私は得意ではないのに農薬のレクチャーして、企画自体をつぶしてしまったようでした。ちなみに有機無農薬って表現は、詳しい人ほど信頼度が下がるのでやめた方がいいですよ。
低価格帯のカラクリ。まあ少しはあっているコメント。実は近年は価格下落がすごくて、一番茶でペットボトル用の茶を確保出来たり(当然 農家の収支はマイナスのため離農が加速中)、抽出技術の進歩で、以前より少ない茶で済んだり、ペットボトル会社の自社茶園や専用の契約栽培が進んでいることとか、一概には言えないのです。
この立場の感覚からすれば、「農薬を散布された茶葉が原料のお茶を飲むのは、農薬を飲んでいるようなものなのです。」となるらしく、まさに農薬を散布していない人らしい表現ですね。実際は収穫までに、雨で流れたり光で分解することで、農薬成分は減っていきます。問題ないレベルまで減ることを見越して、収穫何日前までに散布は終えることにしているわけです。
大体、今回はAの論文で問題のあったと分析された最大値の茶葉を使用しても、ADIからすれば生涯飲み続けても影響がないと結論付けられているのに、この従業員さんは「自分の感覚ではそうみえる」と言ってるだけでしょうね。
E: ビタミンC p167
天然のビタミンCと違い(中略) L-アスコルビン酸は(以下略)。食品添加物に詳しい評論家の小藪浩二郎氏は、違うと書いていますが、同じですよね。
この問題は他の方が有り得ないことを書いています。例えば 郡司氏は天然ビタミンCは酵素が~とか、中国産の品質の悪い添加物が~とか。
もともとビタミンCは、緑茶に含まれています。過熱によってどれだけ減るか分かりませんが、この減った分を補っているだけということです。いつのまにか、全部添加されたL-アスコルビン酸になっているみたいですが。
ところで、記事の小見出しの添加物の味といっても、もともと含まれているビタミンC+L-アスコルビン酸は、酸味ですか、これ分かる人いますかね。
F: 日本の残留農薬基準が他国と比べて高く設定されているのはなぜなのか p167
実は、逆パターンもあるのですね。そういうのは無視。数値だけの比較をして、一番差があるのをことさら強調するから、他国より高いと言っているだけです。実際に比較すると、EUの方が高いものがありますね。
1990年代後半に、ヨーロッパで日本産が叩かれた時、問題になったのはコテツフロアブル(クロルフェナピル水和剤で、これも向こうで認可されてないためでした。そのあと安い中国産が席巻したまま、現在に至っていますね。
クロルフェナピルは現在では、残留農薬基準値が定められています。日本40に対し、EU50、アメリカは70です。こういうことは都合が悪いのでしょうか? おそらく、台湾2を持ちだして、そらみろとドヤ顔するのが目に見えます。
私では手に余るのですが、たしかイギリスは紅茶消費量から、茶類の消費が日本の倍だったかと思います。では、基準となる摂取量はどの国の食文化を背景にEUで決めていくのか、興味があるところです。また、分類も、あちらは茶類の中の緑茶です。ですから飲む量が緑茶以外で日本より多ければ、ADIも影響していくわけです。日本は緑茶メインなので緑茶で基準づくりをするという背景があるようです、というあたりまでしか読み取れませんでした。向こうのmalに詳しい方いらっしゃいませんかね。
ネオニコ系農薬については、毒性そのものよりも、ミツバチ等の環境対策として「政治的」に、低いレベルに設定している背景もあります。それを、単純に数値を比較し、単純に安全性という尺度で比べるのは、ミスリードであると思います。
G: たっぷりと農薬が含まれている
結局のところ、根拠となる論文も一切ない中で、この結論。ひどいですね。
補足 Aの論文について
(引用)環境支援活動を行っている一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト(abt)は「論文は、子どもの神経発達への影響が毒性として考慮されていないこと、ネオニコチノイド代謝物の人体毒性がまだよくわかっていないことの問題性を指摘している」と評価している。(引用ここまで)
ここではっきりと「問題提起」であることを認識しています。論文で証明したわけではありません。したがってこの論文をもって、農薬まみれの根拠にはなりません。
(参考)厚労省 GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)
奥野氏がこの論文を引用する(PRESIDENT Online2021.1.12.)と、表に検出の最大値を書く。普通は平均値ですよね。しかもADIとか無視しての結論が「いずれにせよ、私たちの体は、お茶を飲むことで、農薬に汚染されているのだ。 」
(ひとこと)
現場の普通の農家さんもJA等指導する側も、出来ることなら農薬は減らしたいと考えています。コストも手間も直接曝露される機会も減らしたいわけです。また、ネオニコ系農薬については、他にも代替農薬はあるため使わなければならないわけではないこと、リサージェンスによって抵抗性をもつ害虫が増えることもあり、現場での使用には慎重にならざるを得ません。
こうした農家さんや指導機関を、味方につけた方がいいと思うのです。結果として、ネオニコ系農薬の散布が抑制されることになり、本来の目的は果たせます。